修羅の国こと北九州は小倉に、心地いいムードの焼き鳥屋がある。
≪炭火焼鳥 CHARLIE≫
ナチュラルワインと焼鳥を軸に、素材に拘った料理を提供する、オーナー兼料理人はMY MEN。ヤス。
専門学校の同期であり、会った瞬間から気の合った彼は、カラーギャング全盛だったあの時代を象徴する出で立ち。虚勢はなく、極めてフラットなテンションから漏れる危ない匂いは、リアルだった。
そんなヤスは、同期の中で一番写真のセンスがあった。
保育園や野良猫や友人達との日常を写しても、どれもこれもが、血の味がした。
「リアルじゃねぇ。」
オーバーグランドのhipでpopな表現をそう切り捨てるスタンスは正真正銘サグ。
卒業後。ヤスは仕事を転々としながら、その傍らで写真を撮り続けていた。それは相変わらずリアルでヒリヒリとした空気をパックしており、たまに再会して見せてもらう度に、尊敬と嫉妬がわいた。
しかし、次第に写真から離れていき、そのうち飲食業へと進んだ。
せっかくセンスがあるのにもったいないと思いながらも、次の場所に進んだことを応援した。
やりがいを感じているようだったが、会えば、自ら写真やアートの話を振ってきて、楽しそうに盛り上がる様子をみては、やはり未練があるのかなと感じていた。
互いに家族ができて、30も半ば。なかなか会う機会はつくれず、年に数回メールでやりとりする程度。そんな期間が3年程続いたのちに、自ら店を持つ話を聞いた。
心底嬉しかった。
すぐにでも駆けつけ祝福したかったがタイミングがあわず、、そうこうしている間にコロナ騒動に世界中が混乱し、叶わなかった。
コロナでの自粛は自身も大打撃をうけたが、飲食業に従事する友人達も苦しい状況にあるだろうと心配していた。
開店から1年と3ヵ月。
インスタから知る動向で、努めて真面目に頑張っていること。それが実を結んでいること。見てとれて刺激を受けていた。
40歳。ニューオーダーの世界。
一念発起したオレは、まるでヤスと出会ったころのように前のめり。
仕事は勿論、表現としての写真も積極的に動いている。
そして、随分遅くなった開店祝いとして、作品を額装して送る提案をした。
ヤスは喜んでくれて、奥さんと相談して一枚セレクトしてくれた。
先週。仕上がった作品を持って店を訪れると、仕込み前の昼食時で、口いっぱいに弁当を頬張りながら笑って迎えてくれた。
互いの近況から始まった会話は、積もり過ぎた話が加速して転がり、片時も止まることはなかった。
作品も喜んでもらった。
「ヤス。頑張ってんな!」
するとヤスが、一服しながら
「オレ、ちょっと前までは写真を撮る夢をけっこう見よったんよ。」
「でも今は焼鳥焼く夢を見るんよ。」
グッと来た。
泣きそうだった。
別れ際。今度は家族で食べに来ると約束し、それまで互いに健康で健闘しようと固く握手を交わした。
ヤス。
久しぶりの顔つきは穏やかで、それでいて強かった。
それはすごくリアルだったぜ。
カッコよかったぜ。
尊敬と嫉妬、感じたよ。
オレも負けないように頑張るよ。
頑張ろうぜ!!
ZORN / Life Story feat. ILL-BOSSTINO
shinsuke
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