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Shinsuke

ある写真家の格言

更新日:2020年8月1日


先日、母校である九州ビジュアルアーツを含む総合専門学校Adachi学園の創立50周年の式典に出席してきた。

想像よりも盛大で少々驚いたが、同級生との遭遇率の低さは予想の通りだった。

式典に併せて、開宴の4時間前には写真学科主催で、森山大道さんの講演が催された。

森山大道。その名にピンとこない方もいるかもしれないが、写真好きなら周知のレジェンドである。

専門学校1年の時。学年末の批評会で提出したオレの写真は、廃墟のランドスケープと友人のポートレートを組んだ【現世以上、常世未満】というタイトルの組み写真だった。

いかんせん、まともに登校した方が少なかった劣等生は、現像もプリントもクラスメイトに比べて乏しいスキル。現像液の温度・攪拌回数・速度もでたらめ。できあがった粒子の荒いネガ。それをごまかすかのように、フィルター5でカチッカチのコントラストにプリントした写真は、自分的には目新しく、革新的な写真表現を見つけた気になり、揚々と発表した。

すると講師の一人が「まるで森山大道みたいだね。」

モリヤマダイドウ…?

それが大道さんの名前を初めて聞いた瞬間だ。

自画自賛の花は、いともたやすく散って、残ったのは恥ずかしさだけだった。

すぐに写真学科が所有する森山大道の作品をみた。片っ端からみた。

ショックだった。自分よりも遥か年上の人が、何十年も前から写真の概念をスクラップ&ビルドしていたのだ。

知るほどに大道さんの写真論にシンパシーをおぼえた。

そんな自分にとって特別な写真家の一人が、母校で講演をする、、繁忙期でかなりハードワークだったが、無理を押して参加した。

なんせ、これを逃すと二度と会う機会はないかもしれない。

半ば無謀なスケジュール調整で、朝一から撮影をこなし、デスクワークを片付け、なんとか時間ギリギリに到着すると、レジェンドの講演があるにしては小さな教室に、ずいぶん歯抜けな列席。

拍子抜けしながらも、そこにいつもよりドレスアップする恩師や、2コうえの先輩である木村伊兵衛写真賞をとった下園詠子さん。なにやらオーラを放つおじさん達の姿をみつけて、じきここに大道さんがくるという実感がわいた。

時間となりアナウンスに招かれることもなくフラリと入ってきた大道さんは、ジーンズにTシャツにジャケットの総黒ずくめ。いかにも森山大道のいでたちだった。

第一印象は、思ってたより年老いているな。と。

なんたって、御年81歳。そりゃそうだ。

歩き方や若干の耳の遠さに、年相応さを感じたが、スライドショーに映る自身の写真集について解説を交えながら当時の考えなどを話すその口ぶりは明朗だった。

改めて、共感の連続だった。

1時間の講演が終わり、10分の休憩後、在学生の写真を大道さんが批評するという。なんとも羨ましい企画がはじまった。

緊張して小声なうえに早口で解説する生徒。何度も「え?」「なに?」と聞き返す大道さんに益々、恐縮する生徒。いわゆる学生の撮った写真。

それでも端的に、でもきちんと批評をする姿は優しかった。

そして、度々出てくるピントの甘い写真に、「ちゃんとピントを合わせろよ。」

ピクっと反応するオレを含めた数名。

一拍おいて「まぁ、俺がいうのもなんだけど。」と大道さん。

思わず吹き出してしまった。

この意味が分かる人は、写真好き。笑

式典前。ホテル前で友人を待っていると、大道さんがお付きの人と喫煙所に入っていくのを見て、今しかないと後を追い、握手を求めた。

「男だからなぁ」軽く笑いながら、挟んだ煙草を消して、手を差し出してくれた。

「すいません。カワイ子ちゃんじゃなくて。」握った手はふかふかと柔らかくお爺ちゃんの手だった。

百聞は一見に如かず 百見は一考に如かず 百考は一行に如かず

その瞬間、偶像から実体になった大道さん。

もし、来年も講演会があれば、必ず行こう。そして写真を持参して批評してもらおう。

その時に、仮に「ちゃんとピントを合わせろよ。」と言われても、納得させるだけの揺るがないものを持っていこう。

そう思った。

shinsuke


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