6月も終わる今日。
すでに真夏日を超える日もチラホラ、史上最も遅くやってきた梅雨があければ、いよいよ灼熱の夏到来だ。近所の団地群の一角にある小さな公園は、雑草が茫々と茂っている。
少年のころ。山深い田舎で暮らしていたオレは、ひと山超えて学校に通っていた。
ずいぶん前にトンネルが開通して今では半分以下の時間、当時は一時間かけてアップダウン。チックタック。ワークアウトな道程の半分は面倒・半分は娯楽だった。
枝を振り回し、アケビや野イチゴを摘み食い、親父たち時代の旧通学路(ほぼ獣道)に脱線してみたり、用水路を潜ったり、さながら探検隊。
探検に多少のスリル…危険生物は付きもので、夏の時期には、それは大抵ヘビで、出くわすやいなや、5、6年生の男子によって尻尾から掴まれ、ブンブンと振り回された挙句、杉の群生する斜面に放られ、ある時は枝に引っ掛かり、間抜け極まりない姿をさらしていた。
まるで部族の通過儀礼か、子供社会のヒエラルキーを示すような、その行為は、代々と続いていた。思い返すと、よくあんなことが出来たもんだと引いてしまう。
まったくヘビからしてもいい迷惑だっただろうが、なかには、そんなぞんざいな扱いにハマらない強者がいた。
日本の毒蛇の代表格。ご存じ、蝮だ。
実際に蝮と対峙したことがある人は、わかると思うが、蝮は他の(無毒な)ヘビと違って非常に攻撃的だ。
大体のヘビは、出くわすと一目散に逃げていくが、(特に産卵期の)蝮は、とぐろを巻いて威嚇を始める。
小学5年生のとき。通学中に蝮と出くわした。
指定の登校班を離脱したハグレグミのオレたち。自分の他に6年生が二人と4年生が二人。
禍々しい模様は、一見して、いかにも危険生物であることをアピールしている。
「蝮には気をつけろ!」さんざん大人から注意をうけていた手前、やり過ごすつもりだったが、6年の二人はまさかの臨戦態勢。
しかたなくオレたちも、落ちてる棒っきれを広い、蝮を囲うようにポジションをとった。
案の定、蝮はとぐろを巻き、シーシー威嚇音をさせている。
前方のヤツが注意をひき、死角から棒でぶっ叩く粗野な作戦で挑むが、蝮は、素早く身をかわしながら、方々に首を伸ばし牙を剥く。
その姿はまさにモンスター。冷たく光る鱗紋をくねらし、微塵も引かない姿勢。
烈火のごとく血走る眼。
「今日のところはこのくらいにしてやるか」安い捨て台詞をはいて足早に去るオレたち。
それ以降、蝮にちょっかいを出すのはやめた。
ある時。
親戚の家にいくと、おじちゃんがいいもの見せてやると一升瓶を取出して、それは蝮酒だった。
まだ漬けたばかりらしく、瓶のなかでは蝮が激しく暴れ、牙を剥き、何度も何度もガラス越しに噛みつこうと飛び掛かってくる。
オレがのけぞると、おじちゃんは笑いながら安心だといったが、牙から毒を滴らし、激しく身をぶつける音は生々しく、密閉をすり抜けてくる殺気に身震いした。
やはり、蝮の眼は爛々と燃えていた。
青々と茂る公園の雑草から、なんとなくそんなことを思い出した。
shinsuke