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Shinsuke

KENT

更新日:2020年8月1日


お盆中にうれしい来訪があった。 やってきたのは専門学校時代からのマイメン。

出会いは18歳の春。新聞奨学生の合宿所だった。 たまたま研修や寝食を共にするグループだったことから仲良くなった。 当時、白髪のボウズだったオレと、金髪のボウズだったソイツは、カブの運転講習にきた教官に、「金角銀角コンビ」なんてニックネームをつけらた。

予期しなかった得難い出会い。

金角こと健太郎。別称ケント・マイルド。由来は名前と吸っていたタバコの銘柄を掛け合わせたものだったか…定かではない。 人のことをとやかく言える立場じゃなかったが、ケント・マイルドとは名ばかりのソリッドな風貌と特有の乾きを有するケントは、アウトローだった。

音楽やファッション、それらを含むカウンターカルチャーに造詣が深く、シンパシーを感じたオレはすぐさま惹かれていった。

「オレはカートコバーンになりたい」「そして椎名林檎と結婚したい」ギラギラした眼で、冗談なのか本気なのかわからないテンションでそんなことを言うケント。

オレとケント、そしてアニキング(同じく合宿所で同じグループだった年上の友人)で、夜な夜なくだらない与太話から夢の展望から雑多に語り合い、名残惜しさの滲む街灯が照らす短い夜の終わりをカブで駆けぬけた日々。今も昨日のことのように覚えている。

天神バスセンターの高速バス到着口。 妙にそわそわする心中を押し隠し、ケントの到着を待つ。

電光掲示板に到着の文字。バスから次々と降りてくる乗客。どんなに久々でも一目でわかる。

まるで遠距離恋愛の再会シーンのようで笑ってしまう。

「しんちゃーん、全然変わらんねぇ!!」

満面の笑みで近寄るケントは、年相応に少しだけふっくらして、マイルドな雰囲気を漂わせていた。

カフェで一息つきながら夜までの予定をたて、積もる話は尽きず、沈黙の割り込む余地はない。

「なんか先週も会っとったみたいね。」

いつも思う。大切な人との再会は時の概念を超える。

どんなトピックをつまんでも、そこにはケントらしさが付いてきて、あの頃と変わらない空気に包まれて嬉しかった。

その後、博物館で展示中の浮世絵を鑑賞し、我が家に戻り、そこでkacoと息子とも再会。

息子は会ったことを憶えておらず初めましてのテンション。 kacoは学生時代から面識があったので、嬉しそうに懐かしんでいた。

近況や昔話を語らい、息子のゲームを見るともなく見たり、たわいのない時間が流れていった。

19時過ぎ。 歩いて5分のデラックス・デトックス。浜辺のサンセットを見に行こうと誘い二人で海へ。

刻々と表情を変えるマジックアワー。 茜色とも紫色ともとれる、まさに魔法の色に染められた世界。 iPhoneからグッドミュージックを流してご機嫌なケントも魔法色。もちろんオレも魔法色。

「これが今一番好きなバンドやね。」流れる曲を紹介するケント。

それは偶然にもオレのiTunesにも一枚入っているファンクバンド。

「オレはザ・ニュー・マスターサウンズになりたいね。」

とケント。

笑うオレ。

「なんやそれ、なんも変わっとらんなオレ。」

自分でツッコんで笑うケント。

「アップデートしといて。」 「オーケー。わかった。」

すっかり暮れた松林を引き返し家に戻り夕飯を食べて、みんなで花火をして、そして時間がきた。

駅まで見送りにいき、固く握手を交わし別れた。

電車の到着まで3分ほどあり、改札口から向かいのホームにたつケントを見る。 なにか気の利いたことを叫ぶような歳でもなく、気まずさとは別の感情…そう、まるで名残惜しさが街灯に滲んでいたあの夜のようだ。

柱の陰に隠れ電車を待つ。 アナウンスが流れ、踏切の警報音、車輪の軋みが迫ってきて、ケントは乗車した。 オレは静かに手を挙げ、ケントもそれに返すように手を挙げた。

遠ざかる走行音を背に歩く。

お互い健康で健闘を!

別れ際の決め台詞は心象の環状線を延々と走った。

30分後。 ケントから着信があり、「しんちゃん、最悪や。財布を電車の中に忘れた・・・」 余韻は緊急停車。「マジ?!」

すっかりシンクロしていたオレ。他人事じゃなく、ザワつきは晴れず寝付けない夜を過ごした。 翌日、弟家族の車に同乗し沼津まで帰省中のケントから、財布が見つかった報せが入った旨を聞いて、ほっと胸を撫で下ろした。

久々の、待望の再会は、なかなかハードなボーナストラック付で、一生忘れられないものなった。

無事にハッピーエンドとなったので、改めて結びの言葉をここに記す。

お互い健康で健闘を!

shinsuke

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