18歳の春。 卒業式も終わり、束の間のボーナストラック。
もうじき免許取得のオレは、その日も友人と教習所にいた。 少し早く着いて30分程の待ち時間を喫煙所のベンチに腰掛け暇をつぶしていると、隣りに座る先客の男が声をかけてきた。 やけに貫禄のある、そして華のある風貌は、悪役商会の「不味いっ、もう一杯!!」の人を連想させた。
「兄ちゃんたちは、あれか免停くらったとか?」 「…いえ、初めてッス。」
「おまえは土方とかやりよるやろ!?」 白髪のボウズ頭に大きなピアスをぶらさげた身なりのオレを社会人だと思ったのだろう。 「…いえ、こないだ高校卒業したばっかッス。」
「じゃあ、どこの建設会社に入るとや?」 「…いえ、写真の専門学校にいくッス。」
「ああ!?じゃあカメラマンになるとか?」 「…はい。そのつもりッス。」
「カメラマンって柄じゃねーな。」 「…。」
「見た感じ気合いが入っとるし、うちの組に入らんか?」 「…いや、建築系には興味ないので・・・」
「俺はヤクザの親分しよるとよ。」 「…え?」
いきなりの勧誘は、まさかの組違い。驚いて友人と顔を見合わせた。
悪い人には見えなかったので、自称ヤクザの親分と時間まで団らんすることにした。
「親分はなんでここにいるんスか?」 「免停スか?」
「ばか!」 「娘が通っとって、送り向かいさせられとるとよ。」 「まったく親分も形無しよ。」 「まぁ、娘はやっぱ可愛いわな。」 「おまえら手出したら指詰めるぞ!」
「いやいや、親分の娘さんに、そんなありえないッス。」
昼下がり。なんともほのぼのとした空気に紫煙が揺れていた。
すっかりうち解けたオレたち。 親分は、通りすがる教官に向かって「おぅ、こいつらだいぶ待っとるから、優先してみてやれ!!」と無茶な注文をつけていた。
時間がきて、「じゃ、親分そろそろなんで失礼しまス。」軽く会釈して立ち去ろうとすると「おぅ、しっかりやれ!」「なんかあったいつでも言ってこい!!」頼もしい言葉に背中を押された。
そこに次々と教習車が戻ってきた。
「あれがオレの娘よ。」
指す方を見ると、親分の声のボリュームに迷惑気な表情をみせる女性が歩いてきた。
すれ違いざま、ど正面からまじまじと見たその姿は、藤山直美にそっくりで、歳のくらいもジャスト直美だった。
「おまえら手出したら海に沈めるぞ!」
オレ達は顔を見合わせ、無言でそれぞれの教習車へむかった。
春の空がまぶしかった。
shinsuke