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Shinsuke

諸先輩からのお言葉

更新日:2020年8月1日


先日、仕事で小学校の入学式にいったときの事です。

式典後の集合写真の撮影にも関わらず、8時にインする周到さ・・・式典の始まる1時間前には、シミュレーションまでばっちり済んで、体育館の隅で待機していると、そこに片足を少し引きづるように御老人が入ってきました。 オレを教員と勘違いしたようで、保護者席はどこか聞かれたので、教員ではない旨を伝えて、「おそらく目の前のパイプ椅子が並んでいるのが保護者席だと思います。」「花道を挟んでA組とB組とに分かれて席が設けてあると思いますが、お孫さんがどちらの組かおわかりですか?」と伺うと、御老人は「わたしはオブサーバーだから。」ニコリと微笑みました。

なるほど。運動会や文化祭なんかは近所の諸先輩が観覧されていることもあるし…でもこういう式典にも来るんやなぁと内心で呟いていると、手招きされ、保護者席の一番後ろの一番外側に座る御老人のもとに寄ると、自分はもうずっと近辺の学校の卒業・入学を含む行事ごとを観ているのだと話し始めました。

ダブルのスーツをパリッと着こなし、ネクタイとチーフを鮮やかな黄色で揃えたコーディネートには洗練さがあり、さすがオブサーバーのベテランという風格を漂わす御老人は、大阪で暮らす40過ぎの息子さんの学歴自慢と進路がドラマチックであったこと、それを許容した自分の懐の深さを舌滑らかにしゃべり続けました。

時間を気にすると、まだまだ余裕はたっぷりあり、特段することもないので御老人の話に付き合っていると、職業と年齢を聞かれたので、答えると、「やりたいように思いきりやりなさい!」と肩を叩かれました。それを合図に軽く会釈して立ち位置に戻り、もう一度資料に目を通しておこうとカバンを探っていると、チリンチリンと鈴の音が近づいてきたので顔を上げると御老人が傍に、どこから鳴ったのか?まるで第2ラウンド開始のゴングのようでした。

今度の話題は、自分の歳はいくつか?というクイズ形式で始まり、正解は作家の五木寛之さんと同じ歳であると、五木さんの大ファンであると、舌の根のベアリングは加速をゆるめません。

大好きだという五木さんの著書にある言葉を引用しながら「人生で一番楽しいのは70代だよ。」「ほんとうよ!」としきりに繰り返し、その度に、肩をバシバシ叩かれました。

興味深いトピックだったので、「なんで70代が一番楽しかったんですか?」と問うと「体力も気力も十分あって、足りないもの、怖いものは無いという感じよ!」なんとも具体性に欠ける答えがかえってきました。もちろん肩は叩かれっぱなし。

「なんてたって五木ひろし…寛之さんが、そう言ってるもの!!」バシバシ。

ノッてきた御老人はグイグイと距離を詰めてきて、気づけばリアルに目と鼻の先。 ざっくりとした70代最高説の後に、では80代はどうであるかと、自分で振り、「80代はファイトよ!」と少しばかりの溜をつくってからの発表。「ファイトですか?」と聞き返すと「そう!ファイト!!わかるかな?」餌に食いついたとみた御老人は、一気にたたみかけます。

御老人いわく、70代と80代では心身共に大きく違うらしく、陰に入ってくるところを、「なにくそ!ここからもういっちょ!!」と一念発起して歯を食いしばることが大事らしいです。 肩を叩く手に力のはいる御老人。印籠をかざす格さんばりに、

「なんてたって五木ひろし…寛之さんが、そう言ってるもの!!」バシバシバシバシ。

「じゃあ、良い写真を撮ってください。」我に返ったかのように冷静な顔つきでそう言い残しチリンチリンと鈴の音を連れて席に戻る御老人。

時計を見ると開始10分前。よし、そろそろ仕事モードに切り替えようか・・・すると鈴の音がリターンしてきて、三度御老人のトークショーが開かれることに…。

御老人は、「あらためまして。」手漉きしたような本和紙に筆で書かれた名刺を差し出してきました。 「こういうことをして遊んでるのよ。」ふふふと笑う御老人。

いただいた名刺を見ると、名前を下に漢詩のようなものが書いてあり、「読めんやろ」と言われ、「読めないです。」と答えると、≪腰を折り下を向きながら行く≫的な意味であると教えてくれました。

ザワつきも大きくなり、会場は始まりを予感させるアイドリング状態。「それでは。」御老人は席に戻り、直後、入学式はスタートしました。

順調に進む式も校歌斉唱に入り、もうじきオレの出番。気合を入れて深呼吸。

ふと御老人の方に目をやると、閉式を待たずに足を引きづりながらゆっくりと退場していました。

オブサーバーなりの配慮と礼儀があるのだろうと、視線で見送ると、ジャケットのポケットから覗くガラケーに和柄のストラップが付いていて、よく見るとそれは鈴のようでした。

なるほど。あれがチリンチリンと鳴っていたのかと合点がいきました。

小学6年生のハツラツとした歌声に、鈴の音はかき消されて耳まで届いてはきませんでしたが、確かに鈴の音は鳴っている。ゆっくりゆっくりとその音は遠ざかっている。おそらく今この場でオレだけがそれを知っている。そう思い、≪腰を折り下を向きながら行く≫御老人に一礼しました。

「人生で一番楽しいのは70代だよ。」 「80代はファイトよ!」

ハレの日に予期せずいただいた、紳士な身なりのオブサーバーの、五木ひろし…寛之さんの、、諸先輩からのお言葉。

ありがたく頂戴いたします。

shinsuke

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