世の中が2000年問題なんていう、実体のない恐怖にざわついていた1999年の夏。のある日。
オレは全力で中州の繁華街を駆けていた。
その日、オレは早朝と呼ぶにはあまりに早い時間から新聞を配り、昼前に学校へ向うため、鈍い頭を小脇に抱えて博多駅行きのバスに乗った。 うつらうつら忙しない暗転のたび、車窓から見える景色が、まるで古い映画のように流れていた。
学校最寄りのバス停までは、まだ6駅ほど手前。なにを思ったのか、ほとんど反射的に右手が降車ボタンを押して、オレはふらふらと大型商業施設に入っていき…そして大手外資系レコード店で、レッチリやジャミロクワイの新譜を試聴していた・・・
次の瞬間、オレは全力で中州の繁華街を駆けていた。
走って、走って、走った。
息は、駆け出し1分でとっくに切れていたが、ひたすら走り続けた。
なんでオレは走ってんだ?なんで?
頭のなかではイギーポップの『Lust For Life』が延々とループしていた。 あの時、もしも赤信号を飛び出して車とぶつかりでもしたら、きっとマーク・レントンさながらに大笑い。
今に思えば、あの時期の精神状態はひどく荒んでいた。
走りながら、視界に飛び込んでくる景色は、どこか現実味がなく、まるで夢のようだった。
たとえば、目ん玉以外クリンクリンの体毛が全身を覆った毛むくじゃらの中東系の男がパンツ一丁で立ってたり…まるで悪ふざけかとツッコみたくなる刺青眉毛のじいさんが、大笑いしながらタバコふかしてたり…
どのくらい走り続けたか、息苦しさはとっくに置き去り半ばハイになっていたオレは、見覚えのあるオロナミンCのバカでかい看板を見上げて、ようやくどこにいるのか理解した。 そして、近くに住む同郷の友人に電話をかけて呼び出して、そいつの家に日が暮れるまで居座り、レッチリやジャミロクワイの新譜で踊ったり、稲中を読み耽ったり、ゴロゴロと惰眠を貪ったり、まったく実りのない時間をすごした。
あの頃は、世界情勢も日本の先行きも…なんだったら自分の将来だって他人事だった。ましてや2000年問題なんて眼中にすらなかった。
見た目は段々と大人に、頭脳は一向に子供のまま。 なんともやっかいな時期だった。
shinsuke