ワインとチーズ 入学式と花吹雪 昼寝とブライアン・イーノ
甲本ヒロトと真島昌利
万物には、相性の良し悪しが存在する。
ヤクザとドラマーが合わさると、嵐を呼び、歌にもなる。が、先生とヤクザが合わさると、それは問題になる。
中学3年生の時の担任がそんな問題のある先生だった。 もちろん実際にヤクザなわけではなく、ヤクザとの繋がりが噂されたこともない。 ヤクザ級におっかない先生だったのだ。
岸谷五朗似のその人は、大抵ジャージ上下をラフに着こなしスリッパをぺちんぺちんと鳴らして歩き、どこか横柄で威圧感を漂わしていた。 担当科目は英語。授業前の空気の重さは他の教科の比じゃなかった。
先生の入室を黙想で迎えるという時代錯誤なスタイルも、恐怖統治下にあったあの頃はスタンダード。 スリッパの音が近づくにつれ心拍数があがり、扉が開き、合図で目を開いたときに見る先生の表情から、その日の機嫌を探り、腹をくくる。
ヤクザなエピソードを幾つかあげると、
●テストの答案用紙を返すときに、あまりに出来が悪かったことにブチ切れて、教室に入ってくるなり、窓を開けて答案用紙を外に投げ捨てて帰ったり。 ●文化祭でやる劇の演目を決めるときは、なにやらビデオテープを持ってきていたので、参考になる映画か舞台作品でも流すのかと思ったら、なんと中身はパチスロのHowtoビデオで、教室の片隅で黙々とリーチ目の勉強。 ●中間や期末の筆記テストとは別に、発音のテストとして指定された歌をうたうという拷問のようなテストがあり、それは冬になれば定番のクリスマスソングで、監獄アルカトラズの看守ばりの眼光で睨みつけてくる先生の前で、ひとりひとり、震える声で「ラ~スクリスマス~アゲビュマイハ~・・・」とやるのだ。
あげればキリがない暴挙。 本当にメチャクチャな先生だった。
ただ、ときどき垣間見える無邪気さやユーモア、一欠けらの優しさにほだされ心底憎むことは出来なかった。
夏休みの宿題で、飲酒運転撲滅のポスターを描いたときに、目立ちたがり屋のオレは、淡いタッチで、セクシーな女性を描き、吐息交じりの吹き出しに「だめ、ぜったい・・・」と台詞を入れた、けっこう攻めてるポスターを提出した。 もしかしたら、ぶっ飛ばされるかもと少しビクついていたら、職員室に呼び出され、、あーこれはボコられるなと覚悟を決めて向かうと「おまえはホントにバカやな~。」と爆笑しながら頭を撫でられたのを今も憶えている。
10のうちの2にも満たないアメの甘さに、ついついムチの辛さを許してしまう。 子供とは健気なイキモノなのだ。
生粋の怒られ体質のオレはクラスメイトの中でも群を抜いて先生にシバかれた。 忘れ物の回数、タイミングの悪さ、そして勉強の不出来。原因は自分にあるのは重々わかっているが、、一度だけ、黙想前に忘れ物に気付き、職員室に報告に行ったときに、「おまえもう授業でんな。」と言われボイコットしたことがある。 先生としたら食い下がる展開を待っていたんだろうが、、その意図がみえたオレは、元来のへそ曲がりが疼き、「わかりました。」とあっさり引き下がった。
教室では、みんなが心配そうにオレの帰りを迎えてくれたが、「オレ、今日は授業でらんわ。んじゃ。」ザワつくみんなを振り切り教室を出ると、廊下で先生とすれ違い、胃がキュっとなりながら、溜まり場にしている生徒会室を目指し、そこで、いつまでも速く脈打つ心臓の音を聞いていた。
それが4限目のことで、終了のチャイムがなり、教室に戻るとみんなから「どこで何をしてたか?」質問攻めにあった。
なんだか少し優越感があった。
だが、それは一瞬のことで、最悪の事態はすぐに訪れた。
給食の準備が始まり、席をグループごとにくっつけて配膳がはじまり、オレは思わず「あっ!!」と声をあげた。 よりにもよって日替わりでグループを渡り歩く先生の配膳が、オレと隣のやつの机を跨いで乗っかっている。
支度が整ったあたりで先生がやってきて、当事者であるオレはもちろんのことグループのみんな、、教室全体に重苦しい空気が漂うなか、昼食がはじまった。
味もへったくれもない状況。極力、平然を装っていたが、きっと耳まで真っ赤だっただろう。
悪いことは続くもので、さらに追い打ちをかける出来事が。
その日が週に一度、生徒が持ち寄ったCDを放送委員がチョイスしてかける曜日で、突如、ご機嫌なミュージックが沈黙を切り裂いた。
それは、当時爆発的にヒットしたスキャットマン・ジョンの『Scatman (Ski-Ba-Bop-Ba-Dop-Bop)』。持ってきたのはオレ。 ガッデム。。
ピーパッパポパラッポ パッパパラポ アイマ スキャットマーン!
ユーロビートを軽快に乗りこなすジョンの高速スキャット。
たかだか3分半が、1時間にも感じた。
悪夢である。
ヤクザのような先生と重苦しい雰囲気 meets スキャットマン・ジョンは絶対NG。
相性というのは大事である。
Scatman (ski-ba-bop-ba-dop-bop) -Scatman John
Shinsuke