山尾三省という方をご存じでしょうか?
アニミズム詩人 なんて称される詩人です。
アニミズム…とは、生物・無機物を問わないすべてのものの中に霊魂、もしくは霊が宿っているという考え方だそうで。この語はラテン語のアニマ(anima)に由来し、気息・霊魂・生命といった意味があるらしいです。
オレの実家は宮崎県の北部に位置する美郷町(旧・北郷村)というところで、それはそれは山深い…小さな集落で生まれ育ちました。
炭焼きの名人だった祖父、しいたけ農家の両親、田畑を耕し、収穫したものを漬物や味噌やこんにゃくなんかに加工する祖母。そして、オレ・妹・弟の三兄弟。 そんな百姓一座。
仕事とプライベートの境なんてのは、有って無いようなもので、生業と生活は同じ土俵にある…自然と繋がり生きている・・・まぁ、かんたんに言うと、田舎のお百姓さんです。
食卓に並ぶものの大半は、自家製。
朝、鶏小屋から産みたての卵を採ってきては、卵かけご飯で朝食。
卵を産まなくなった鶏を祖父が絞めて、鶏鍋にしたり。
隣家の、猟師さんが時期になると山に入り≪ダァーーン!!≫と銃声が響いて、、しばらくすると、軽トラの荷台にイノシシを積んで帰ってきて、庭先に吊るして捌く。んでそのお裾分けを頂く。
絞めたり・捌いたり・・・命が終わる現場を幼い時から日常として目にしていました。
その分、命の始まる瞬間も沢山見てきたように思います。
そんな環境のなか、遊び相手は専ら自然でした。
日が暮れるまで野山を駆け回り、蛇を振り回し、、川で魚やエビを捕まえては焼いて食べたり。
おかげで生傷の絶えない少年時代でした。
街灯もろくに無い通学路(山越え)。木々の切れ間に射す月明りを頼りに歩いて帰った日々。それは、しっかりと闇夜の恐怖を身体に刻みました。
中学を卒業するまでの15年間。 その間で培った価値観は、いまだに自分のルーツとして根付いています。
日本中、世界中に、沢山の宗教があって、多神教であったり唯一神であったり…実に多様です。
自分は無神論者ではありません。 かといって、どれか特定の神さまを信仰しているわけでもありません。
でも、自分が なにか に生かされているような感覚は、幼い頃からずっと持っています。
たぶん、それは人間も自然の一部であり、自然のサイクルの中にいることから感じているものではないかと思います。
なので、アニミズムという思想は、なんだか肌に合います。
そんなアニミズム思想を体現されて生きた山尾三省さんの詩は、とても心に響きます。
一番好きな『火を焚きなさい』という詩を載せます。
『火を焚きなさい』
山に夕闇がせまる
子供達よ
ほら もう夜が背中まできている
火を焚きなさい
お前達の心残りの遊びをやめて
大昔の心にかえり
火を焚きなさい
風呂場には 充分な薪が用意してある
よく乾いたもの 少しは湿り気のあるもの
太いもの 細いもの
よく選んで 上手に火を焚きなさい
少しくらい煙たくたって仕方ない
がまんして しっかり火を燃やしなさい
やがて調子が出てくると
ほら お前達の今の心のようなオレンジ色の炎が
いっしんに燃え立つだろう
そうしたら じっとその火を見詰めなさい
いつのまにか --
背後から 夜がお前をすっぽりつつんでいる
夜がすっぽりとお前をつつんだ時こそ
不思議の時
火が 永遠の物語を始める時なのだ
それは
眠る前に母さんが読んでくれた本の中の物語じゃなく
父さんの自慢話のようじゃなく
テレビで見れるものでもない
お前達自身が お前達自身の裸の眼と耳と心で聴く
お前達自身の 不思議の物語なのだよ
注意深く ていねいに
火を焚きなさい
火がいっしんに燃え立つように
けれどもあまりぼうぼう燃えないように
静かな気持で 火を焚きなさい
人間は
火を焚く動物だった
だから 火を焚くことができれば それでもう人間なんだ
火を焚きなさい
人間の原初の火を焚きなさい
やがてお前達が大きくなって 虚栄の市へと出かけて行き
必要なものと 必要でないものの見分けがつかなくなり
自分の価値を見失ってしまった時
きっとお前達は 思い出すだろう
すっぽりと夜につつまれて
オレンジ色の神秘の炎を見詰めた日々のことを
山に夕闇がせまる
子供達よ
もう夜が背中まできている
この日はもう充分に遊んだ
遊びをやめて お前達の火にとりかかりなさい
小屋には薪が充分に用意してある
火を焚きなさい
よく乾いたもの 少し湿り気のあるもの
太いもの 細いもの
よく選んで 上手に組み立て
火を焚きなさい
火がいっしんに燃え立つようになったら
そのオレンジ色の炎の奥の
金色の神殿から聴こえてくる
お前達自身の 昔と今と未来の不思議の物語に 耳を傾けなさい
いわゆる、田舎のお百姓さんの家である 実家の風呂場も、離れにあって、薪を燃やして沸すタイプでした。
火の燃える様子を見るのが好きで、よく手伝いを買って出た記憶があります。
あれはたしか、小学校3年生くらいの時。 風の強い日でした。
母ちゃんから追い炊きを頼まれて、いつものように薪を次から次に放り込み、それに早く火を移そうと、松の枯葉や新聞紙をバンバン入れ込んでいたら…突風が吹いて、燃えたソレらが舞って、壁に燃え移ってしまい。。
慌てて消そうとバタバタ叩いたら、自分の服も燃えだして、、あわあわ していたら母ちゃんが、バケツの水を≪バシャ――!!≫とかけて消火してくれました。
とても怖い思いをしました。
何事も、『急く・過ぎる』は良くないと学んだ日でした。 余談です。
shinsuke