それは奇妙な出会いから始まりました。
2002年頃の東京。
当時、暇さえあればカメラ片手に散歩をするのが大好きで、、あわよくば迷子になったら最高とばかりに、距離に隔てなくブラブラと彷徨っておりました。
そんなある日。
愛機GR-1vを手に家から少し離れた区域の住宅地。その裏路地、水路沿いを歩いていると、、書きなぐった様な龍のグラフィティが描かれたブロック塀に、もたれかかって胡坐をかき、一心不乱に木に鑿を打ち付ける男がいたので、思わず反射的にシャッターをきりました。
そして「すいません。何してるんですか?」と声をかけると、坊主頭に木屑を積らせた男は「木を彫ってます。」と穏やかな声で問いかけに答えながらオレの方に目をやりました。
まるで解脱してるかのような表情の男の腕やタンクトップから除く胸元には、和洋折衷の刺青がガッツリ入っており・・・ それはそれは只者じゃないオーラを発していました。
オレはその人に興味を持ち、腰を据えて見&聴の構えをとることにしました。
その人曰く、職業は気功を使ってギックリ腰からガン患者から…ありとあらゆる病を治療する気功士さんらしいとのこと。
≪それってつまりナニ?≫のツッコミを押し殺し、「へぇ、なんかスゴいスピリチュアルっすね!」と軽薄なコメントをかえしたような、かえさなかったような・・・そこらへんの記憶は曖昧です。
なんでも3ヶ月前に横浜から引っ越してきたばかりで、2週間前に大型台風で家の前の水路に、木が大量に引っ掛かっていたのを片付けてる最中に、≪そうだ、この木を使って彫刻してみよう!≫と閃いたらしく、その日から連日彫っているとのことでした。
(こりゃまた変な人に出会ったな。もうちょい様子みてヤバい感じだったら脱出やな。。)と内心思っていると、「キミも彫ってみない?」と誘われ、その曇りなき眼に光る ある種の狂気性に、思わず「是非!」と答えてしまいました。
そうして急きょ。行きずりの変人と、狭い路地にて一対一の彫刻ワークショップが開かれる運びとなったのです。
ハマのジェダイマスターから、まずは素材を選ぶべし との指示を仰ぎ、水路を てぇい と飛び越えて、、向こう側に積まれた、まだ折口の青々しい流木を物色していると、ふと、一本の木に目が留まりました。
全長20センチに満たない径18センチ弱ほどの、やや『く』の字に曲がったコンパクトなソレが、なぜか妙に気に入り 手に持って、またも てぇい と飛び戻り、「これにします!」とマスターに伝えると、「隣りにどうぞ。」と促されて、恐れ多くもウェッサイ・ハードコア師匠と横並びに座り、電鋸やなんかの使い方をレクチャーしてもらいました。
師匠の制作途中の作品は、1メートルはあろうかという鶴で、、すでに鶴と認識できる完成度でしたが、まだまだ5割程度の出来であると語るその佇まいは、この道30年の風格。
師がいうには、【考えるのでなく感じるのだ】 とのことで・・・
さてさて、オレは何を彫ろっかなー と鼻をほじっていたら、いきなり びかっ と脳天にインスピレーションが降って刺さり、「見えた…見えました師匠!」憑りつかれたように彫りはじめるオレ。
「見える!」「見えるぞ!!」 垂れるヨダレもそのままに、鑿を持つ手に一切の迷いなく…まるで運慶の生まれ変わりかといわんばかり。
それを横目に、【フォースはお前と共にいるのだ いかなるときも】 とパダワンを優しく見守る、ヨーダさながらの、エリア045からの流浪人。
仮にこの時、幼子を連れたご婦人が通りかかっていたら、、打ちも打ったり、取りも取ったり の、この如何ともし難いイタい2人組が、我が子の目にふれないように手で覆ったことでしょう。。(それが親の愛ってもんです。)
そうこうする ものの40分やそこらで、リバーシブル仕様の仏像(?)が完成。 ワークショップ終了。
冷たい麦茶でも と家に招き入れてもらうと、胸元に鮮やかなパピヨンが羽ばたく、ローリン・ヒル似の奥さまが迎えてくれました。
見渡すと部屋のいたるところに作品が置いてあり、、半分は奥さまが彫ったものらしく、Mrs.ウェッサイの方が筋が良いのでは?と感じました。
1時間くらい談笑して、時計を見ると17時を少し過ぎた頃で、「そろそろ、帰ります。」と席を立つと、、「夜、もんじゃパーティーしようよ!」「彼女といっしょにおいで。」と誘われて、一度 帰宅してkacoに事情を説明すると、「もんじゃ食べたい。」の返事で再びウェッサイ家におじゃましました。
もんじゃも美味しく、音楽の話など話題もかみ合って、ワイワイ とても楽しい時間でした。
別れ際。「それじゃ、また!」 明日もね!! ぐらいのテンションで別れました。
それから何回か、メシやイベントのお誘いがあったのですが…忙しかったり、忙しいていを繕ったりで、実は一度もあっていません。
本能的に避ける何某かを感じたのかな と今になって思います。
その夫婦とは、1日限りのつきあいでしたが、、その時に彫った彫刻は、後の東京での暮らし~福岡への引っ越し~今の生活 と13年来の長いつきあいとなりました。
13年の間には、結婚や子供の誕生なんてビッグイベントがあり、また時々に怪我や事故や手術なんて、ちょっとした災難もありました。
そんな災難にみまわれた時も、その都度 大事に至らず・・・行くも地獄退くも地獄のこの渡世で、家族3人 幸せのど真ん中を歩いています。
感謝の二文字に並ぶものなし! なんてことを、日頃 支えてくれる人達や、とりまく環境を想い浮かべて思うとき。
ふと、コイツのおかげも少しある?
とか思ったり。
いやいや、うーん どーでしょう?
リビングの片隅に鎮座する、名無しの道祖神。
たまにはホコリを掃ってさしあげねば。
とか思ったり。
shinsuke